微弱な信号を計測しようとする際に、センサーからの信号が小さいために満足な測定ができないことがあります。そんな時はセンサの信号を増幅器(プリアンプ)を使って大きくしてやれば良いように思えます。
増幅器を使えば確かに信号は大きくなります。しかし同じ割合で雑音も大きくなります。さらに、増幅器には少なからず内部雑音があるので、結果的に増幅器出力の雑音は信号よりも大きな割合で増えます。
理想的な増幅器は内部でノイズを発生しません。それならば、理想増幅器を使えば全くノイズの無い出力が得られるかというと、そうはいきません。というのは、センサなどの信号源には必ずノイズが含まれるからです。
そのノイズとは、センサの熱雑音です。ディジタル機器からのパルス雑音や交流電源からのハム雑音などアンプやセンサの外部に起因する雑音ノイズではありません。外部雑音は人為的に取り除くことができます。熱雑音の大きさ(パワー)は温度と信号の帯域幅で決まり、センサの出力に現れる雑音電圧はパワーと信号源の内部インピーダンスで決まります。<図1>
例えば、信号の帯域幅が10kHzで内部インピーダンスが1kオームのセンサは、何もしなくても室温で約400nVもの雑音を発生することがわかります。熱雑音は人為的に取り除くことができません。
図2は、こうしたセンサと増幅器をつないだ時の様子を表したものです。増幅器の出力は信号と雑音が混ざり合っていますが、その雑音は信号源に起因するものと増幅器に起因するものがあって判別が付きません。したがって、増幅器の出力の雑音だけではその増幅器がどれくらい低雑音なのかという雑音性能を評価することはできません。
図からも分かるように、肝心なのは「入力の信号とノイズの比率」と「出力での信号とノイズの比率」です。もし、両者が等しければ、増幅器は理想的であるといえます。
信号とノイズの比率を”S/N比(えすえぬひ)”と呼び、入力でのS/Nと出力でのS/Nの比率をノイズフィギュア[NF]といいます。NFは通常デシベルで表記します。したがって理想増幅器のNFは0dBです。また、信号源のノイズの量と、増幅器のノイズの量が等しくなった時のNFは3dBになります。
増幅器を2段、3段と縦続接続する場合は、図3のようにノイズと信号の関係は複雑になります。結論から言うと、この場合は、できるだけ利得が大きくノイズフィギュアの小さい増幅器を前段に置いた方がS/Nの良い出力が得られます。
センサの出力インピーダンスがごく小さい場合は、増幅器の出力には増幅器の内部雑音しか現れません。丁度増幅器の入力をショートした様に見えるからです。したがってこの場合は増幅器の入力をショートした時の雑音の大きさで増幅器の雑音性能を評価することができます。増幅器の出力に現れる雑音は増幅器の各段間で発生したものの集積ですが、通常は全てが増幅器の入力端で発生したものとみなし、出力に現れた電圧を増幅器の利得で除した「入力換算雑音」で表現します。
なお、ここで扱ったノイズは熱雑音です。プリアンプの入力換算雑音やノイズフィギュアを問題にする際には事前に外部雑音に対する徹底した配慮と対策を講じておくことが先決です。